認知症で資産凍結!?家族信託で資産を守る!

認知症で資産が凍結されることをご存じでしたか?
認知症によって、不動産や銀行口座の管理ができなくなると、これらの資産はまったく動かせなくなります。
例えば、認知症になった親の家を売却して施設に入る費用にしたくても、その不動産が親名義であった場合は、売却不可能になるということです。
これは実は、相続問題よりややこしく、怖ろしいことかもしれません。
今、終活の場面で、認知症から資産を守るための一つの方法として「家族信託」が注目されています。
相続の切り札として新しく登場した「家族信託」とは、いったいどういうものなのか。
事例をシミュレーションしながら、みていきたいと思います。
見出し
親が認知症になると、相続対策は何もできません!
認知症になると、本人の意思確認ができないために、あらゆる契約ができなくなります。
家や土地の売買、銀行口座の解約、相続対策のための切り札ともいえる遺言書を作成することも不可能です。
それは、その親の長男や他家族であっても、名義が親であれば手を付けられないということです。
わかりやすくシミュレーションしてみましょう。
認知症を発症した父親
Aさん一家が住む家からほど近い分譲マンションに、Aさんの両親は住んでいます。
父も母も年老いてはいても、身の回りのことは自分でできるので、いい距離感で生活していました。
ところが、父親の認知症が発覚しました。
始めは、母親と長男夫婦が介護をしていたのですが、認知症が進んでくると、目が離せない上に、火の始末や事故の心配もあります。
マイホームを建てたばかりのAさん夫婦はローンのために共働きです。
有給などを駆使しても、この先、母親だけでは目が行き届かなくなることは目に見えています。
ケアマネージャーと相談して、施設で面倒をみてもらうことになりました。
おそらくこのまま、施設から出ることはできないでしょう。
一人になってしまう母親も、高齢や持病の心配もあり、ケアつきのホームに入ることになりました。
両親ともに施設でお世話になると、年金だけでは足りません。
空き家になってしまうマンションも問題になります。
空き家のまま放置していると、資産価値も下がってしまうので、この際売却して両親の施設入所のための資金に充てることにしました。
ところが、父親の認知症を理由に、売買の仲介を不動産屋に拒否されてしまったのです。
ここで問題です。
Aさんは、認知症になった父親の代わりにマンションを売却することができるでしょうか?
答えはNO!
認知症になったとはいえ、そのマンションの所有権は父親が持っています。
親族であっても、父親の許可なく売却することはできません。
売却だけでなく、修繕も、人に貸すこともできません。
父親の意思確認ができない今、マンションは誰も手が付けられない状態なのです。
これを「デッド・ロック」現象といいます。
成年後見制度を利用すればいいのでは?
認知症や障害のある方を、法的に支援する制度に成年後見人制度があります。
判断能力がない人の代わりに、財産を守ってくれる制度です。
認知症になってしまった時に備えて、前もって後見人を選んでおく任意後見制度と、すでに認知症になっている場合に家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見制度があります。
どちらも、後見人は認知症になった本人の代わりに、施設への入居手続きや、預貯金を取り扱うことができます。
では問題です。
認知症になった父親の代わりに、後見人にマンションを売却してもらえるでしょうか?
答えは原則NO!
後見人は、認知症になった人の財産を守るために、契約を無効にする権限はありますが、財産を売却したり運用したりする権限はありません。
ただし、家庭裁判所が売却に合理的な理由があると認めた場合は、財産の運用が許可されることがあります。
この場合、認知症になった父親の施設入居のための資金にどうしても必要であれば、売却を許可されることがあるかもしれません。
ですが、母親への援助はできないのです。
Aさんはどうすればよかったのか
このように、親が認知症になってしまうと目の前に資産があったとしても、どうにもこうにもできません。
65歳以上の4人に1人は認知症、及び認知症予備軍だと言われている今、相続対策よりも親の認知症対策を考えなければいけない時期にきているのです。
Aさんは、父親の認知症がまだ軽いうちに、家族信託制度を利用するとよかったかもしれない事例です。
認知症の備えとしての家族信託
家族信託を手っ取り早く説明すると、
「財産の所有権はそのままに、財産を管理する管理権だけを、信頼できる家族に託す」
という制度です。
平成19年に制定されたので、まだ広く知られてはいませんが、徐々に利用者は増えています。
家族信託のメリット
Aさんの場合でみると、父親がまだ認知症が軽いうちに、Aさんと父親の間で家族信託の契約をしておけば、マンションを賃貸に出すなどの活用ができるようになります。
もし、父親が亡くなって相続が発生した時は、Aさんが管理するマンションの賃貸料を父親から母親へ相続させることもできます。
このように、これまでの制度では難しかった、財産の管理を家族にゆだねるという柔軟な対応を可能にするのが家族信託です。
家族信託は信託契約が必要です。
家族信託を取り扱う、税理士をはじめとした士業と相談するといいでしょう。
遺言にもなる家族信託
例えば、父親がAさんに不動産を譲る遺言を遺した時。
父親からAさんへ、AさんからAさんの長男へ、長男から長男の妻へ、順番に相続されたとします。
不動産を相続した長男の妻が亡くなった時に、遺言を遺した父親にとっては想定外のことが起きてしまいます。
長男の妻の財産となった不動産は、Aさんの父親の家系から離れ、長男妻の家系(妻の兄弟姉妹)に相続されます。
これは遺言書ではどうすることもできません。
家族信託では継承者を選ぶことができます。
この場合、長男の妻から、長男兄弟姉妹の子へと、民法では不可能だった二次相続以降の継承者を指定することができるのです。
「認知症で資産凍結!?家族信託で資産を守る!」のまとめ
もしかしたら、父親は認知症にならず、そのまま普通に相続が発生するかもしれません。
その時は、家族信託の契約は無駄になってしまいます。
ですが、万一認知症になって、Aさんのようににっちもさっちもいかなくなった場合を考えると、家族信託という保険をかけるのは無意味ではないと思います。
まだ認知度が低い家族信託ですが、気に留めてみてくださいね。
わたしももう少し勉強してみます。